ポルシェに憧れる人々の聖地だった、ミツワ六本木ショールーム物語

1日の終わりが近づいてきた夜11時過ぎ、これから夜の街に繰り出す人、そろそろ終電が気になりはじめる人、さまざまな人生模様があります。そんな時間の移ろいのなかで、深夜のショールームのガラス越しに、恋い焦がれるクルマを眺める人の姿があります。 飯倉片町の交差点、港区立港区立麻布幼稚園および小学校の向かいに位置する、ミツワ自動車六本木ショールームも、そんな場所として通い詰めた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

●当時の足跡を振り返るには最適な良書「A Timeless Romance」

A Timeless Romance 画像提供:江上透 1993年にミツワ自動車が発売した書籍「A Timeless Romance」をご存知ですか?現在もカーグラフィック誌の表3に広告を出している「ポルシェの広告」のうち、1962年12月〜1993年2月までのものを1冊にまとめたものです。ショールームで3000円で販売されたもので、一般の書店には並ばなかった(そのためISBNナンバーも存在しません)ため、インターネットが普及するまでは、知るぞ知る幻の資料だったのです。 現在、入手方法としてもっとも確実なのは、インターネットオークションです。ごく稀に出品されることがありますが、探している人が多く、定価以上の価格で落札されるケースがほとんどです。

●かつては「麻布仲ノ町」と呼ばれていた場所

「A Timeless Romance」によると、ミツワ六本木ショールームがオープンしたのは1966年4月。当時の住所は、港区麻布仲ノ町24と記されています。それが現在の港区六本木3-18-6(当時は港区六本木3-18)となったのは、1967年夏頃のようです。電話番号の変更も行われていないため、場所はそのままで住所の表記が変わったものと推察されます。・・・ということは、50年以上も六本木の、そして飯倉片町の交差点の移ろいを見つめ続けてきたのです。

●ミツワ六本木ショールームは、ポルシェに憧れる若者にとっての聖地だった

JAIAの統計によると、2016年のポルシェ新規登録台数は6887台。1960〜1980年代半ばまでは、年間1000台以下の時代が続きます。コンスタントに1000台を超えるようになったのは1987年以降です。*ちなみに、バブル絶頂期の1990年には、4589台を記録しています。再びこの台数を超えることができたのは、4661台を記録した2012年のことです。 前述のように、新規登録台数が1000台以下だった時代が長く続いたポルシェ。いまよりもはるかにポルシェが珍しい存在だった時代にショールームへ足を踏み入れることは、とてつもなく高いハードルだったことは容易に想像ができます。 この50年間のあいだに、深夜にミツワ六本木ショールームを訪れ、「いつかは俺(私)もポルシェオーナーになるんだ!」と心に誓い、その夢を実現した人はいったいどれくらいいるのでしょうか?そのなかには、現在は誰でも知るような俳優・女優さんや、企業の代表など、蒼々たる顔ぶれであることは間違いありません。 そして、念願のポルシェオーナーになった人には「ポルシェ オーナーズ クラブ オブ ジャパン(現ポルシェクラブ)」への扉が開かれることもあります。ミツワ六本木ショールーム内にも、ポルシェ オーナーズ クラブ オブ ジャパン六本木支部(現ポルシェクラブ六本木)が存在していました。年齢、性別、職業を問わず「ポルシェを愛する大人たちの社交場」として機能しており、サーキット走行会やツーリング、クリスマスパーティーなど、現在でいうところの「オフ会」の原型のようなものが既に存在していました。 「ポルシェ」という共通のキーワードを介して集いしメンバーたちは、利害関係を超えた絆で結ばれていたのです。

●ミツワ六本木ショールームの現在

現在、この場所はAudi六本木のショールームとなっています。2011年6月にミツワ六本木ショールームが閉じられ、その2ヶ月後に「Audi 六本木」としてリニューアルオープンし、現在にいたります。取り扱うブランドは変わりましたが、自動車ショールームとしての形態が残ったことにほっとした反面、ポルシェの看板が下ろされたことに一抹の寂しさを感じたものです。 その向かいには、2014年6月にフェラーリのディーラー「Rosso Scuderia 六本木ショールーム」がオープン。かつてはガソリンスタンドだったこの場所に、フェラーリのディーラーができるということで話題になりました。首都高都心環状線を走っていると、このショールームに展示してあるフェラーリを眺めることができます。 これはあくまでも筆者の推察ですが、この場所にフェラーリのディーラーをオープンしようと考えた方は、かつてミツワ飯倉ショールームを外から眺めていたか、実際にポルシェを購入したことがあるように思えてならないのです。 ポルシェからフェラーリへ。21世紀の若者たちは、夜な夜なRosso Scuderia 六本木ショールームを訪れ、「いつか必ずフェラーリのオーナーになってやる!」と奮起してこの場所を訪れるのでしょうか・・・。
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